SAIと広告代理店バラードと生ライブの未来
11月27日。
ACIDMAN主催で、マキシマム ザ ホルモン、ASIAN KUNG-FU GENERATION、ELLEGARDEN、10-FEET…これだけでもヘッドライナー級のバンドが揃ってるのに、それに加えてMr.Childrenまで出るという
カレーにカツとハンバーグと唐揚げとエビフライを全部乗っけたような「SAI」というとんでもないフェスが開催されていた。
筆者は運良く見切れ席で参戦することができた。
見切れ席は演者を横から観れる席もあったが、私の席はフロント3人(2人)は見えるが、ドラムは幕に遮られて見えない席だった*1ため、詳細なレポは控える。
目当てはもちろんミスチルとホルモンだったが、どのバンドも素晴らしかった。*2
特に主催のACIDMANの「廻る、巡る、その核へ」には圧倒された。
あれはミスチルで言う「タガタメ」や「I'll be」と同じ系統の曲*3だ…
そしてたまアリから帰宅の途につき、Twitter検索したところ、おそらくミスチル初見勢の方から
「ミスチルめっちゃロックバンドやん!」
「ミスチル圧倒された」
こんなことを言われまくってて驚いた。
今まではフェスにミスチルが出ても「ミスチル地蔵」などの厄介ファンのことしか言われてなかったのに!
私のようなミスチルオタクはいつも生の彼らを観てるので、セットリスト*4や桜井さんの喉の調子*5しか気にしていなかった。
ミスチルオタク以外(今回は邦ロックのファン)から見たらそういう風に映るのかーなんか新鮮ー
ふと思った。
もしかして、ライブでのミスチル知られてなさすぎ。。?
確かにチケット取りにくいし*6
フェスにもなかなか呼んでもらえないし*7
仕方のないことかもしれない。
【タイアップと音楽番組の功罪】
みのミュージックで「売れると広告代理店に依頼されたようなバラードを書かされる問題」が取り上げられていた。
言及元のツイートはおそらくこれと思われる。
King Gnuもそうだし特に米津玄師なんかはそうたけど、一発大きいの当てると広告代理店からの要望みたいなピアノとストリングスでドバドバの大味なバラードしか作れなくなる現象もとても不健全
— ○代目 (@askaryohukkatsu) 2022年8月23日
「広告代理店バラード」の例として引き合いに出されてるのはKing Gnuと米津玄師のようだが*8
ここでミスチルの最近のタイアップ曲とテレビ演奏曲を並べてみた。
★はSAIで演奏された曲
- here comes my love(ドラマ(隣の家族は青く見える」)テレビ演奏なし
- SINGLES(ドラマ「ハゲタカ」)テレビ演奏なし
- Birthday(映画「ドラえもん のび太の新恐竜」)Mステ
- 君と重ねたモノローグ(映画「ドラえもん のび太の新恐竜」)テレビ演奏なし
- The song of praise(ZIP!)ベストアーティスト
- others(CM「キリン 麒麟特製 レモンサワー」)テレビ演奏なし
- turn over?(ドラマ(おカネの切れ目が恋のはじまり」)CDTV
- Brand new planet(ドラマ「姉ちゃんの恋人」)FNS歌謡祭
- Documentary film(タイアップなし)CDTV、Mステ、紅白
- 永遠(NETFLIX「桜のような僕の恋人」)Mステ、SONGS
- 生きろ(映画「キングダム」)Mステ、SONGS★
ここ最近のタイアップ曲10曲のうち、実に4曲がバラード。
しかもテレビでは、生演奏にこだわりのあるバンド以外は「当て振り*9」しかやらせてもらえない。
(それを逆手にとって大暴れするバンドもいるが*10)
ミスチルも「僕らの音楽*11」などの一部番組を除いてほとんどが当て振りだ。
おそらくミスチルは「テレビの人」で、「テレビでのミスチル」だけを見て大衆受けのバラードばかりを演っているバンドと思われていたのではないか。
その予備知識のまま、30年以上磨いてきたミスチルの生音を浴びるから、度肝を抜かれるのではないか。
某ベーシスト*12が「俺の好きじゃないバンドが売れて俺の好きなバンドが推されないのはおかしい」といった趣旨のことをツイートしていたが、
仮にもメジャーバンドで演奏経験のある人が言ってはいけないセリフだろう。
タイアップ曲やテレビで演奏されている曲だけを見てそのバンドの音楽性を決めつけるのは本当によくない。
ベースヒーローとして著名なんだから、推したいバンドがいるんなら売れてるバンドに嫌味を言う前に自分で推せばいいじゃないか。
少なくとも早世した90年代のギターヒーロー*13はそうしていた。
「SAIで会ったミスチルは“芸能人”ではなく“バンドマン”だった」
といった内容の話をされてて、なんかうれしかった。*15
【テレビ演奏や配信ライブは生ライブの代替になり得るか】
個人的にミスチル以外でも生の音圧にやられたバンドがいた。
ロッキンで観たNUMBER GIRLがそれである。
キュウソの終わり際にゆるりと観るかーってノリでLOTUS STAGEに来たら
他のバンドとは音圧が全然違った。圧倒された。
先日スッキリで生演奏していたが、やはりあの生での音圧にはかなわない。
もう解散してしまった*16ので、生のライブを体感してほしいと言っても体感してもらえないのが残念。
(向井秀徳は「マンションのローン*17がヤバくなったら再結成する」と言っていたが)
コロナで配信ライブが普及したことにより、持病や家庭の事情などで現場に来られない人にもライブを観てもらえるいい時代にはなったと思う。
しかし配信は生のライブの代替にはなり得ないし、生のライブは絶対になくならないと断言できる。
しかし。
イベント制作会社「THE FOREST」の森さんが、このようなエントリを書いていた。
コロナの数年間、中高生や大学生、専門学生たちは、先輩や友達に誘われたりしてライブやフェスにデビューする機会を失ってしまっていて、この「体感」をしていないので、これが業界や文化や人々の感覚にとんでもない影を落としている
「まだコロナが心配で控えています。」よりも「ライブ行ったことがないです。配信で観たことあります。」の方に潜在的な問題を感じています。
そもそも「生のライブの良さを知らない」世代が生まれているということのようだ。
これは由々しき事態ではないか。
【アーティスト主催フェスと商業フェスの今後は】
12月19日、SAIの配信が行われていた。
座談会部分は生配信だったので、本音トークが聞けて面白かった。*18
TOSHI-LOWさんは「主催者が異なる界隈のオーディエンス同士を繋ぐ役割をしてない人気者を集めただけのフェスの時代は終わってる」と苦言を呈していて、
大木さんも「金儲け目当ての商業フェスは終わるかも」という見解だった。
私も同様の見解で、アーティスト主催フェスと商業フェスの両方に複数参戦してきたが、アーティスト主催フェスはまた行きたいと思うようなポイントが複数あるのに対し、大手のフェスは目当てのアーティストが複数出てるとかでない限りは参戦することはないと思ってしまう。
SAIは確かに出演バンドこそ豪華だが、それだけではない“化学反応”“現象”がそこにはあったように思う。
継続して集客できているアーティスト主催フェスは安泰だと思うが、ビジネス目的で始めたような商業フェスは淘汰されていく予感がする。
(大手主催のフェスでもホスピタリティがあるところはあると思うが*19*20)
なお、SAIの模様は一部ですが1月2日までAmazon Music JP Twitchチャンネルにてアーカイブ配信されている*21のでぜひ。
*1:ドラマー推しなのにドラマーを観ることができないというかなしみ
*2:フードエリアやトイレに行くため一部観れなかったバンドもある
*3:圧倒されすぎて動けなくなる系の曲
*4:「終わりなき旅」「名もなき詩」「HANABI」「himawari」「生きろ」
*5:ボイトレを始めてからかなり安定するようにはなったが、キー下げされていると(察し)となるオタク。ちなみにこの日は絶好調でした
*6:FCに入ればスタジアムなら取れるが、アリーナでは会員ですら取れないこともある
*7:ミスチル地蔵のせいで呼ばれないのではないかと言われている
*8:個人的にはこの2組の楽曲に関しては言うほど大人の事情的なものは感じない
*9:ボーカル以外のパートが音を出さずに演奏してる振りだけをすること。ボーカルがこれをやる場合は「口パク」と言われる
*10:X JAPAN HIDEの「手放し奏法」やDragon Ash Kjの「マイク逆さ持ち」は有名
*11:2014年9月終了
*12:葉っぱスースーして捕まった人
*13:hide。「LEMONed」プロジェクトでZEPPET STOREなどを発掘
*14:bayfm「Hedgehog Diaries」11/30オンエア
*15:ただのオタクの感想
*16:12/11ぴあアリーナMMでのライブをもって解散
*18:某狼の中の人の世を忍ぶ仮のニックネームを言いかけたり
*19:某洋楽フェスはそこのところが希薄なように感じる
*20:茨城の某フェスも主催がアレな人だし続かなそう